2020年1月4日土曜日

ウタ、ライブ6出演者紹介その3「ビル」

てろてろのメンバーが、出演者の紹介をいたします。


ビルを初めて聴いたのは、ハイテクノロジー・スーサイドのカヴァーアルバム「HAVE A NICE DIE!」(超名盤。ハードコアのカバーオムニバスなのに、なぜかジャケは蛭子能収によるクリムゾンキングの宮殿パロディ。1曲目はその蛭子さんによる無音のポエトリー。あとは豪華参加陣による怒涛のハードコアがノンストップで収録)に入っていた「骨」。この時のボーカルは戸川純で、ビルはバックバンドという体裁だったと思うのですが、いわゆるハードコアの音なのにボーカルが何を言っているのかがきちんと聞こえるハードパンクでした。

その後、オリジナルの、ボーカルがついて自分たちの曲をやっているその本来の姿のビルのライブを観たのは今はなき神楽坂explosionだったか。その時はCD収録の「骨」のようにしっかりと歌の内容が聞き取れたわけではないのだけど、断片的に聞こえる歌詞、ハードなのにしっかりとしたメロディは、確かに歌モノとして聞こえました。自分の思う一般的なハードコアは「伝えたいことがあるのに聞こえない」といった類の、ある種の怖さ悲壮さを感じるものなのですが、ビルの場合は「伝えたいことはそんなにないのに歌としての手触りがきちんと伝わる」「怖いのに、どこか明るい」そんな風な印象のライブ。
今にして思えば、故・遠藤ミチロウ氏が自身のバンドについて語っていた「ザ・スターリンは歌ものだけど、言葉の有機性をモロに信じちゃいけない。歌を通じて何かをやるのには限界がある」「日本的なもの東洋的なものなんか何一つない、それが日本的なんだ、ということを表現したい」という話に似ていたような気もしますが、全然違う気もする。ともかく、ケツから殻を剥がし損ねた田舎出の小僧が見るには、ビルのライブはあまりに圧倒的でした。

フロントマンであるいぬん堂氏が主催するパンク・ニューウェーブの最重要レーベル「いぬん堂」及び主催イベント「いぬ屋敷」は、ザ・スターリンの伝説的なコピーバンド・コケシドールの活動場所を作るために始まったものだそうです。コピー、モノマネ、模倣、人から下に見られる冷たく見られる嘲られる、そのロックの世界の異様なほど硬直したオリジナリティ信仰、の風当たりは今でも強いのでしょうが、トリビュートバンドなんて言葉ができて、動画で誰もが「歌ってみる」ことのできる今よりも、それはもっともっと激しかったようです。
それでもそんなことをやる。そのための場を作る。人を集める。似た手触りのバンドも。それを観たい人たちも。そんな殆ど無謀で自己犠牲的にすら見える献身を行うことは、まごうことなき「愛」のなせる業だろうと思います。

遠藤ミチロウがライブで臓物を投げつける。怒り狂った客に「これは俺の愛だ」と答える。それとおなじように、愛の塊を、高速で轟音で、躊躇なく投げつけ続ける。愛そのもの、何もかもどうでもよくなるほどの混沌となって。
ビルを見ると嬉しいし、ワクワクするのです。片思いの好きな子と会った時みたいに。



及川耕碩(Vo,Sax)

0 件のコメント:

コメントを投稿